長い間、アルゼンチンで民衆と接触してきた新ローマ法王フランシスコは庶民感覚の持ち主だ。法王はこれまで何人ものイタリア人に直接電話をかけて励ましたり、慰めたりしている。
去る8月上旬、強盗に襲われ殺害されたガソリンスタンド経営者の、憤怒する弟と悲嘆に沈む母親に突然、法王から電話がかかった。そして、「君たちの怒りと悲しみはよく分かる。希望を失わず神に祈りなさい」と諭した。
また、法王に手紙を出した北イタリアの大学生(19)は、法王に直接電話をもらって驚いてしまった。法王にどのような敬語を使ってよいやら分からずに動転していると、「君と僕でいいんだよ。イエスは12使徒とそうしていたではないか」とざっくばらんに8分間もおしゃべりをしたという。
さて、バチカン市国の国家元首でもあるローマ法王から電話がかかってきたら、正式にはどんな敬称を使うべきかご存じだろうか。英語なら「Your Holiness」、イタリア語なら「Santita’」か「Santo Padre」、日本語なら猊下(げいか)、聖下、台下といったところだろうか。
でも、型破りの庶民的新法王にはそんな大仰な敬称を使う必要はない。「パパ様」で十分お喜びになるはずだ。
坂本鉄男
(9月22日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)