坂本鉄男 イタリア便り 団体旅行の元祖

 今では、初めての海外旅行は団体旅行にかぎると、相場が決まっているようだ。これは何も日本人に限らず、ガイドを先頭にローマ市内を見物する米国人をはじめ、中国、韓国人のグループも多い。

 団体旅行を初めて企画成功させたのは、有名な英国の旅行社の創始者、トーマス・クックだといわれる。

 18、19世紀の英国貴族や資産家は、子弟が学業を終えると、家庭教師や召し使いをつけてヨーロッパの文化と歴史を身に付けさせるため、フランスやイタリアをたっぷりの時間とカネをかけて一種の大名旅行をさせていた。いわゆる、グランドツアーである。

 クックは、1863年7月初め、当時、英国人が好んだスイスの山行きに100人ばかりの最初の団体旅行を組織したのだが、これが大成功を博した。以後、毎年企画した団体旅行の参加者は増え続け、そのわずか10年後には英国人を中心とする約50万人もの団体客を世界各地に送り出したといわれる。もちろん、旅程、ホテル、レストランなどについて前もって詳細な調査を行ったのは、今の旅行会社と同じだ。

 現在、海外旅行を楽しむ人々は世界で年間、10億人を超えたともいわれる。クックの先見の明には頭が下がるばかりである。

坂本鉄男
(9月1日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)