私は喫煙の習慣がないのでたばこの味について述べる資格はないが、本日は珍しいイタリア産の葉巻についてご報告したい。
昔は、イタリア人の年配者がねじれた木の根っこのような形で匂いのきつい葉巻を吸っているのをよく見たものだ。これが、シーガロ・トスカーノ(トスカーナ・シガー)だ。
これの誕生のいきさつは面白い。1815年8月15日、まだトスカーナ大公国であったフィレンツェ市一帯を集中豪雨が襲った。
豪雨で水浸しになった葉タバコを廃棄処分にするのはもったいないと乾かして安物葉巻を作り売り出したところ大受けしたのが始まりである。
この葉巻は評判がよく大公国の外にも輸出され、その後、ナポリでも同種の葉巻が製造されたほどであった。
現在でも、トスカーナ・シガー製造会社は25種の葉巻を製造販売している。原料の葉タバコは原則として中部イタリアを中心に栽培される国産ケンタッキー種を使用し、一番外側を巻く葉っぱだけには幅の広い米国産ケンタッキー種を使うそうだ。
どうです。禁煙の世の中ですから、吸うためではなく見せるだけのイタリア土産としてこの珍しいイタリア産葉巻をお求めになっては。
坂本鉄男
(8月25日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)