暑い夏の夕方、のど元を通る冷たいビールのほろ苦さは、なんとも言いようがない。
ご存じのように、ビールの苦みや香りは原料の一つ、ホップにある。アサ科のつる性植物ホップは、高さ8メートル以上に達する多年草で、雌株から採取する「毬花(きゅうか)」と呼ばれるものをビールに用いる。
ホップはカフカスが原産地だが、今ではドイツ、ハンガリー、チェコ、米国などで栽培されるものが名高い。
だが、世界各地には自生種もあり、イタリア北部の港湾都市ジェノバを州都とするリグーリア州の田舎では、野生ホップの穂先をゆでて、野生アスパラガスのように食べてきた。
さて近年、イタリア地ビールの種類と生産量は増え続け、各自特徴を出すのに懸命である。容器のビンにしても、750ミリリットル入りの下膨れのワインのビンに似たものが多い。栓も王冠でなくコルクで、ワイン用のコルク抜きが必要だ。
さらに、リグーリア州では農業試験所の援助を受け、改良した自生のホップの栽培地を拡大し、輸入ホップに頼らずに地ビールの味に特徴を持たせる試みも始まっている。
ワインの歴史の長いイタリアだけに、今後の地ビールの味が楽しみである
坂本鉄男
(8月4日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)