今年のえとは「ヘビ」である。古代文化の中でもヘビほど嫌われたり尊敬されたり、両極端の扱いを受けた動物はないだろう。
キリスト教ではヘビは悪の象徴である。旧約聖書の創世記では、アダムとイブがずる賢いヘビに唆されて神のおきてに背き、禁断の実を食べて楽園を追放されたと書いてある。
実際、宗教絵画の中でも、ベネチア派の巨匠ティエポロ(1696~1770年)は「無原罪の御宿り」を主題とした絵で、聖処女マリアがリンゴをくわえたヘビを踏みつけている姿を描いている。
だが、現代の若者ならヘビはアダムとイブに「セックスの喜び」を教えた賢い生き物と考えるかもしれない。
他の東西の文化では、ヘビは生命と英知の象徴とされることが多い。ギリシャ神話の名医アスクレピオスの持つ1匹のヘビが巻きついたつえは「医療・医学」のシンボルとされ、世界保健機関(WHO)のマークになっている。
また、伝令の神ヘルメスが持つ2匹のヘビが巻き付き頭にヘルメスの翼が飾られたつえは、「商業・交通」のシンボルとされ、一橋大学の校章ともなっている。
とはいえ、ヘビは有毒爬虫(はちゅう)類の90%以上を占める怖い生き物である。
坂本鉄男
(1月6日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)