坂本鉄男 イタリア便り 武器の訪問販売?

 35年ほど前、ナポリ港に戦後初めて自衛艦2隻が入港したときのことである。日本大使館には防衛駐在官がまだおらず、担当したのは警察庁から出向していた野田健1等書記官(後の第82代警視総監)であった。住まいがローマのわが家の近くで親しくしていた。
 事前協議のため、ナポリの海軍司令部を訪問する故ディ・ジャンニ名誉総領事と野田書記官の2人の親友に頼まれ、私も何度か同行した。その結果、海軍司令長官が主催する自衛艦幹部のための午餐(ごさん)会に私も招待された。すると食事中に突然、司令長官が自衛艦の艦長に「今回の遠洋航海でどのくらいの武器が売れましたか」と聞くではないか。驚いた艦長が「幹部候補生の訓練と親善だけが目的です」と答えたものの、イタリア側は納得できないという顔をした。
 自衛艦訪問は、名誉総領事宅および自衛艦上での盛大なパーティーなどを含め成功裏に終わった。後日、お礼に副司令官を訪れたとき、私は先の質問の趣旨を尋ねた。すると彼はいとも簡単にこう答えた。
 「武器の開発には非常に費用が掛かるので、遠洋航海中、寄港先の海軍の要請があれば実弾射撃も含め、自国製の武器の性能を見せるのです」と。他国の海軍の遠洋航海がセールスも兼ねていたことを知ったのである。
坂本鉄男
(11月25日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)