昔は、洋の東西を問わずあらゆる宗教は信者の「寄進」により財産を大きくしていた。今のように宗教離れの時代になると、宗教団体にとっては大きな寄進など夢のまた夢である。
ところが、北伊のボローニャ近郊の町で去る3月17日に死去したある実業家が、17億ユーロ(約1700億円)に上る財産をすべてボローニャのカトリック司教区に寄進するとの遺言状を残したから大変。この人物は、従業員千人を抱え、欧州中に12カ所の工場を持つイタリア一のオートマチック門扉製造会社「ファーク」の2代目オーナーで、妻子はいなかった。
この世紀の大寄進を受けたボローニャ大司教区がびっくり仰天したのはもちろんのこと、5人の伯父と、正式にはめいなのだが彼の実妹と称する女性がたまげたのは言うまでもない。
親族は、死者が所有していたこの超優良会社の過半数株が散逸するのを防ぐため、直ちに財産保全の申請を裁判所に出した。今後、親族と教会双方の取り分などが司法の手により定められることになる。
騒動の過程では、巨額の寄進を約束した遺言と同時に、この実業家が生前の10年間にカトリック教会に1億ユーロもの献金をすでにしていたことも判明した。天国の門も彼の前ではオートマチックに開くに違いない。
坂本鉄男
(11月18日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)