日本からの友人の便りに「野菜スープにファッロを入れて食べたが歯応えがありうまかった」とあってびっくりした。
ファッロは日本ではスペルト小麦と呼ばれるらしい。古来、中近東や地中海沿岸で栽培されてきた穀物で、日本のソバやヒエのように荒れた土地でも寒冷地でも収穫できるため、小麦の脇役として貴重な食品であった。ローマ時代には、滋養のある穀物として新婚夫婦が子供を授かるようにと豊饒(ほうじょう)の女神に供えたり、この粉で作ったパンや菓子を夫婦で一緒に食べて子孫の繁栄を祈ったりしたともいわれる。
だが、中世になり麦の品種が多様化し、収穫量が多く味の良い現在の小麦の栽培が広まると、忘れ去られ、イタリア中部トスカーナ州やウンブリア州の山間地の農家の食べ物として細々と生き長らえてきた。
近年、田舎の隠れた食材や伝統料理探しがブームになると、ファッロの良質なタンパクやミネラル、ビタミンBの豊富な含有量が見直されてきた。その結果、パンやケーキ用の粉として、また、粒のまま野菜スープなどに使われるようになった。このファッロが日本で売られていると知り、驚いたわけだ。外国の古来種もいいのだが、日本も古来種の見直しに努力をしたらどうだろうか。
坂本鉄男
(9月2日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)