坂本鉄男 イタリア便り 「4月の魚」

 4月1日が「エープリルフール」で、外国ではこの日には嘘(もちろん、罪のない嘘に限るが)をついても構わないことを知っている日本人は多い。もっとも、イタリアやフランスでは「4月の魚」と呼び、子供たちが友達の背中に気付かれないように紙の魚を貼り付け、笑い物にするいたずらが普通である。

 こんなに大人から子供までがいたずらを許される日なのに、この「エープリルフール」の起源となると全く分からない。古代ギリシャ神話に源を求めるものから、1582年にヨーロッパの主要国がそれまでのユリウス暦を捨て、現代も使われているグレゴリオ暦を取り入れたとき、元日をずらされたフランス民衆の反対から起こったとする説まである。

 過去60年間で私がもっとも素晴らしい「エープリルフール」の一つと思うのは、1957年4月1日に英BBCが有名ジャーナリストを使って流した「スパゲティのなる木」の偽ルポルタージュであった。アルプスの南のスイス領ティチーノ州で農家が木に実ったスパゲティを取り入れる光景を放映したのである。

 あまり真に迫っていたのでBBCに「わが家の庭に植えたいのだがどこで購入できるのか」との問い合わせが殺到したという。でも、この話は本当ですよ。

坂本鉄男
(4月1日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)