坂本鉄男 イタリア便り 司法と金庫破りの技術

 イタリアの金庫破りの技術の高さは想像を超え、これまで何度も映画の題材にもなった。以前はトンネルを掘り、銀行の地下金庫を狙う事件が頻発した。

 1989年夏、銀行の貸金庫が襲われ、ローマ在住の借り主のお金3600万リラ(当時の為替レートで約360万円)が盗まれた。警察に直結する警報装置を備え、3重の鍵で守られた貸金庫がどうして破られたのか大きな謎となった。

 結局、貸金庫の借り主と銀行とで被害金の損害賠償をめぐる裁判になり、第1審では借り主が勝訴したが、銀行は控訴した。

 審理は遅々として進まず、2005年にようやく第2審判決が下され、「落ち度は軽微」として、銀行は約款上の損害補償額の最高である100万リラのみを支払うよう命じられた。借り主は最高裁に上告したのだが、今年9月、思いも寄らぬ最終判決が下された。このような内容だった。

 「金庫破りは当時としては予測不可能な高度技術を駆使し、銀行は防御の術がなかったと判断される。よって銀行の非は認められず、上告は却下。上告人は裁判費用の1700ユーロ(約18万円)を支払うべし」

 借り主にとってはまさに「盗人に追い銭」の結果に。いやはやイタリアの泥棒の技術と裁判所の判断は恐ろしい。

坂本鉄男
(11月13日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)