坂本鉄男 イタリア便り 12センチのハイヒール

 夏はハイヒールを履いた女性の脚が、奇麗に見えるシーズンである。一昨年、テレビでファッションショーの舞台裏の番組を見ていると、モデルの一人が、舞台から戻ってすぐに、流行の超ハイヒールの靴を脱いで、一生懸命に足をもんでいるのが映し出された。

 一緒に見ていた友人が、モデルとはどんなに高いヒールでも履きこなすと思っていたので、ビックリし、「モデル嬢も人の子だな」と妙に感心していた。

 先日、歯医者の待合室で暇つぶしに女性雑誌を読んでいると、読者欄に「12センチのハイヒール」に関する投書が載っていた。「そんな靴を履く人はどうかしている」との意見やダンスパーティーの帰りに痛くて歩けなくなった体験談などが多かったが、こんな親切な忠告もあった。

 いわく「16歳の私は3年前、5センチのヒールから始め、今では10センチに達しました。急がずに足を慣らすことが大切です」と。

 この女の子は12センチに達するまであと何年、慣らすつもりなのだろう。

 医者の意見も記されていた。「つま先だけに体重がかかるので指の故障を起こしやすい。足首を痛める危険もある。無理な姿勢をするため骨盤に悪く、肩凝りの原因にもなる」という。

 いやはや、女性の美に対する忍耐には「脱帽」である。

坂本鉄男
(8月28日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)