イタリアには内務省所属の「国家警察」のほかに組織も総司令官以下の階級も軍と同じ国防省警察(カラビニエリ)がある。重大犯罪や組織的犯罪を扱うほか、海外に不正流出した美術品・考古学的文化財を調べる特殊捜査部門も持っている。
さて、この部門のある下士官が夏休みで米ニューヨークを散歩中、骨董(こっとう)店に陳列されていたローマ時代の大理石胸像に目を引き寄せられ、直感的に携帯電話で撮影した。
これがきっかけで、1988年夏にローマとナポリの中間点にあるテッラチーナの考古学博物館から盗まれた紀元1世紀の大理石像が取り戻されたが、こうした成果は、ほんの一例にすぎない。
イタリアは美術品密売の犯罪組織にとって最大の商品入手先である。去る3月中旬、30年にわたる交渉の末、アメリカのポール・ゲティ美術館からシチリアに返還された紀元前5世紀の石像「モルガンティーナのビーナス」は典型例だ。
70年代末にシチリアで盗掘されたばかりの彫像をスイスの美術品故買専門家が安値で買い、ロンドンで50万ドル(約3900万円)で売りさばいた。さらにこの名品をゲティ美術館が目玉作品として1千万ドルで購入したのである。美術品の故買がいかにもうかるかの一例でもある。
坂本鉄男
(7月24日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)