1911年にニューヨークのあるバーテンダーが作り出したと伝えられる食前用カクテルの代表「マティーニ」は、ついに1世紀の歴史を迎えた。
イタリアではカクテル材料の一つのベルモットを製造する「マルティーニ・エ・ロッシ社」の発音どおりに「マルティーニ」と呼ぶ。一時流行がすたれたが、最近、再びはやり出したのは、作り方も簡単、味もシンプルな点が好まれるからであろう。
このカクテルは、イタリアではドライ・ジン8の割合に対し、ベルモット・マルティーニ・ドライ2が基準といわれるが、飲み物は個人の嗜好(しこう)が一番大切だけに、この基準にこだわる必要はない。英国のチャーチル元首相は、ベルモットはほんの香り程度で、大部分がジンのものを飲んだことで有名だ。
準備の段階でも材料をカクテル用氷と一緒にミキシンググラスで攪拌(かくはん)し、カクテルグラスに注ぎ、緑のオリーブを1個入れるのが正式とされるが、これも映画007シリーズでジェームス・ボンドが注文したように、シェーカーでシェイクしても邪道だろうが構わない。
飲む時間は1940年代末のカクテル通の米国人作家が「絶対にバイオレット・アワー」、つまり「宵闇迫る頃」と言っていた。こよいは食前に一杯いかがですか。
坂本鉄男
(7月3日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)