坂本鉄男 イタリア便り 予言は外れたが…

 去る5月11日、ローマに大地震があるとの噂が流れ、小・中学校は40%の生徒が欠席し、会社では社員の約20%が欠勤した。特に中心部テルミニ駅近くの中国人街では軒並み「本日休業」の張り紙が出された。

 おかげで、ローマ周辺の農家経営の民宿は満員だったが、本当に大地震が発生していたら近郊だって甚大な被害を受けただろうに。

 実際にはローマに地震は起こらなかったが、同日スペイン南東部にマグニチュード5・6の地震があり、多数の死傷者を出した。

 知人は「予言した地震学者は複数の天体のエネルギーの影響で起こると言ったのだから、地球までの何万光年もの距離を考えれば地中海の幅の誤差くらいはあっても仕方がない」と主張した。

 専門地震学者でも予測できないのに、独学の地震学者の言葉を信ずるのも信じないのも勝手だが、人間の自己防衛本能に従い、個人的直感で「怖かったら逃げる」のは決して悪いことではない。

 自然災害ではないが、ナチスがユダヤ人狩りを始める前に危険を感じ財産を捨てヨーロッパからアメリカに逃げて命が助かったユダヤ人のケースもある。

 直感に従ってやせ我慢しないのがイタリア流といったところか。

坂本鉄男
(5月29日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)