ご存じのように欧州連合(EU)諸国は死刑反対で、米国や日本などの死刑容認国と対立している。
さて、去る1月下旬のある伊有力紙に「イタリア製の睡眠薬の品不足により米国での死刑執行が不可能に陥る」との記事が出ていた。記事によると、米国では死刑執行に特殊な薬品注射を行う州が多く、薬品の配合方法は政府により厳しく決められているらしい。
中でも重要な薬品は「チオペンタールナトリウム」という強力な睡眠薬だが、これを独占的に供給していた米国の薬品会社が製造を中止し、イタリアのミラノ近郊にある子会社で製造していたものを回していた。
だが、子会社もこの薬品の売上高が全製品のわずか0・2%にすぎないこと、薬品が死刑に使用されていることから生じる会社のイメージダウン、会社の従業員への万が一の法的制裁措置などを考え、製造を中止してしまったのである。
困ったのは3200人以上とされる死刑囚を抱える米国だ。代替薬品の法的認可には時間がかかるため、アリゾナ、カリフォルニア、ケンタッキー、テネシーなどの州は死刑執行延期を決定している状態だという。死刑反対運動家たちは「こんな効果的な方法が降ってこようとはまさに天の恵み」と大満足だというが、さもありなん。
坂本鉄男
(3月6日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)