坂本鉄男 イタリア便り 死刑の無い国とは

 11月1日に、日本の裁判員裁判開始後初めて死刑が求刑された「耳かき殺人」事件の判決が言い渡される。また、7月には「死刑廃止」を訴えていた千葉景子法相(当時)が死刑執行に立ち会い話題になった。

 死刑が100年以上前から存在しないイタリアで最も重い刑は終身刑である。しかし、一生を刑務所で過ごす終身刑の囚人はほとんどいないのが現状だ。ここで今年になって問題になった重犯罪の受刑者について報告したい。

 さる4月の復活祭に受刑態度良好との理由でローマの刑務所から外出許可をもらった終身刑の囚人2人が帰らず、脱獄したことが判明した。1人は1999年にシチリアで殺人を犯した受刑者で、もう1人も99年にドイツで殺人を犯し、ドイツの裁判所で終身刑の判決を受け、イタリア側に引き渡された受刑者だった。2人の囚人とも判決から10年で自由外出を許可されていたことになる。

 また、さる8月、80年代前半に犯罪グループのリーダーとして、殺人や強盗など17件の凶悪犯罪を重ね、合計33年の禁固刑を宣告されていた55歳の受刑者が刑期満了で出獄した。脱獄を3回したものの、司法協力の代償として刑を17年に減刑されたためだ。「罪を憎んで人を憎まず」も「過ぎたるは及ばざるがごとし」である。

坂本鉄男
(10月31日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)