「エッ、ローマ市内にサン・ピエトロ大聖堂より高い建物を建てることが許可されるんだって! まさか! そんなのウソー!」
ローマ市民の大部分は、1600年代半ばに地上からてっぺんまで136メートルもあるこの大聖堂が建設されて以来、約400年のあいだ、上記のように信じてきたのである。
だが、いくらルネサンス時代の巨匠ミケランジェロが設計した巨大なキューポラで覆われた歴史的重要建築物であるといっても、現代の建築界のコンセプトは、狭い敷地に多機能を有した高層ビルを造ることである。
ローマがサミット参加国イタリアの首都であるならば、市内に高層ビルの1つや2つくらいあってもおかしくないはずだ。
しかも、バチカンの古文書館には、ローマが法王領だった時代にも大聖堂を越える高層建築禁止条項など存在しないし、1929年に当時のファシスト政府と法王庁との間で結ばれたラテラーノ条約にも同じような禁止条項は存在しないのである。
だが、有力日刊紙「レプブリカ」が読者にアンケートを求めたところ、7千人の回答者の65%が「大聖堂を越える高層ビルの市内建設に反対」を表明したという。伝統と歴史を重んじる市民性がよく表れている。
坂本鉄男
(9月26日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)