坂本鉄男 イタリア便り 「電話盗聴」と捜査

 組織犯罪に限定せず、捜査のための電話盗聴が許されているイタリアの当局なら、わが国の「政治とカネ」の問題では、さっさと収賄疑惑のある政治家やその秘書と献金疑惑のある建築業者の電話、政治家の大金持ちの母親と秘書の電話に盗聴器を仕掛けたに違いない。

 イタリアの司法当局が公表している数字によると、イタリア全国で電話を絶えず盗聴されている人は約4万人もいて、その一人が平均3本の電話を盗聴されているというから、約12万本の電話が盗聴されていることになる。

 さらに、おのおのの電話に1日平均50人がかけていると計算すると、約200万人分の通話が盗聴の対象になっているといえる。

 また、当然のことながら、司法当局の盗聴班のほかに電話盗聴の専門会社が150社もあることから、昨年末の時点でこれらの会社が国に対して持つ請求権総額は4億8千万ユーロ(約585億円)の巨額に達していた。

 これまでも電話を盗聴されていろいろなスキャンダルを暴露されたベルルスコーニ首相は、約3年前から検察側の電話盗聴とマスコミによる盗聴内容の公開に歯止めをかける法案の成立に躍起になってきたが、野党およびマスメディアから「捜査と報道の自由に猿轡(さるぐつわ)を掛ける」との非難を浴びて立ち往生している。だが、これだけ盗聴が許されてもマフィアや汚職を根絶できない捜査当局にも問題がある。

坂本鉄男
(7月11日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)