先進国の中で原発がない国はイタリアだけである。これは、イタリアは1958年から70年にかけて4カ所で原発建設が始められたにもかかわらず、旧ソ連のチェルノブイリ原発事故のあと、87年の国民投票で、投票者の約80%の反対により原発の建設中止が決められたためだ。
もちろん、原発の途中での建設中止は莫大(ばくだい)な損害をもたらせたが、民意では仕方がない。あれから20年以上たった今でも、イタリアは水力発電だけでは到底電力需要をまかない切れず、また、火力発電所に必要な石油、天然ガス、石炭のいずれも輸入に頼らざるを得ない。
結局、不足電力は、誠に矛盾した話だが、主にフランスから、原発によって生産された余剰電力を購入しなければならないのが現状だ。
これでは世界のエネルギー供給源の不安定な時代に対処できないと、ベルルスコーニ内閣は2008年に原発建設を決めた。
だが、それでは国内のどこに建設するかという問題になると、約20年前の全国45カ所の候補地は、国民投票で拒否反応を示しただけに、いずれも尻込みするばかり。
また、建設費用も毎年高くなるばかりで、予定価格を大きく上回るのは確実だともいわれている。
こうなると、「先進国中唯一の原発がない国」の名誉ある(?)長期記録は、ますます更新し続けられることになりそうだ。
坂本鉄男
(5月30日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)
(5月30日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)