昔は目立たなかった「女性殺し」が今や世界各地で続発している。イタリアでも新聞を開けば、「夫による妻殺し」「前夫による前妻殺し」「別れた彼氏による元の愛人殺し」「ストーカー殺人事件」「同棲(どうせい)女性殺し」の見出しが目に飛び込んでくる。事件の背景や原因の分析は犯罪心理学者や社会問題の専門家に任せるとしても、殺された女性の遺児の世話は誰がするのだろうか。
日本にどのような法律があるのかは知らないが、イタリアには2018年1月に国会で承認された「夫婦間、または事実上の配偶者間における家庭内犯罪により生じた孤児救済法」が存在する。孤児を救済するための資金や運用方法などをめぐる議論が省庁間で長々と続いていたが、このほどようやくまとまり、正式に発効の運びとなった。
官報によると、今回決まった救済金の総額は1億4,500万ユーロ(約178億円相当)。多くはないのかもしれないが、これまでになかった画期的な法律といえるのではないか。孤児に対し奨学金や医療援助、就職などの便宜が図られ、支援家族に対する補助金も支給されるという。
考えてみれば、女性殺しが頻発する責任は社会全体で負担すべきであるということだろう。それにしても住みにくい世の中になったものだ。
坂本鉄男
(2020年9月29日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)