ピザなどナポリ料理に欠かせない材料の一つがモッツァレラだ。水牛の乳で作られる生チーズで、牛乳で作られるフィオール・ディ・ラッテと比べ、ずっとおいしいし、値段も高い。<br /><br /> 水牛にはアジア種とアフリカ種があり、5世紀ごろにアフリカ種がイタリア南部、特にナポリから南下した場所にあるサレルノ地方に持ち込まれ、モッツァレラが特産物となった。気候変動による平均気温の上昇に伴い、水牛の飼育エリアは北上し、今ではイタリア北部でも生産される。
生チーズのため消化がよく、100グラム当たり約280キロカロリーでビタミンとミネラルを多く含むことから病人食としても勧められる。
最も簡単な料理は「カプリ島風サラダ」。300グラムくらいの丸いモッツァレラを半分に切り、端から1センチほどの厚さにくし形に切って、同じ程度の厚さに切ったトマトに乗せ、バジリコの葉をのせて並べればおいしいサラダが出来上がる。
ほかにナポリで有名な一品は「馬車に乗ったモッツァレラ」。端を落とした角形食パンの間にモッツァレラの薄切りを挟み、溶き卵とパン粉をつけて揚げる。
昔は丸形パンを切って作ったため「馬車の車輪の上にモッツァレラを乗せた」ように見え、この名が生まれた。今では、この語源を知る人はほとんどいなくなっている。
坂本鉄男
(2020年7月21日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)