カトリック教では昔、この世の最後の日に死者が墓からよみがえり、神の裁きを受けるものと信じられてきた。そのため、死者は土葬するものと決まっていた。教会が時代の流れに押され正式に火葬禁止を解いたのは1963年のことである。
イタリアはかつてカトリック教が国教だったため土葬が当たり前だった。しかし、火葬が解禁されて以来、急速に火葬が普及し、2016年の統計では死者の23%が火葬された。
だが、火葬場の増設が追いつかない。ローマの場合、火葬の待ち時間は通常5~7日間で、混雑時には15日間待ちという、日本では考えられない事態が起きている。
驚くのはこれだけではない。火葬後の遺灰の扱いにもいろいろ規則があり、下手をすると禁錮刑や罰金を科せられる。遺書があれば故人の遺志を尊重し、風葬や海に流すことも法的には可能だが、普通は骨つぼに納められて封印され、墓地や納骨堂に納められる。
ローマ市北部にある140ヘクタールものイタリア一広大な公営墓地。バスも巡回するほど広い敷地内を通る道路上に、それまで自宅に保管していた母親の骨つぼを放置し、訴えられた男性がいた。駅の遺失物保管所には置き忘れた骨つぼまであると聞く。日本とは故人の遺灰に対する考え方がかなり違うようだ。
坂本鉄男
(2019年7月23日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)