2018年連続文化セミナー 「イタリアの古代美術」
第3回 ローマ皇帝の饗宴とギリシア神話 ― ティベリウス帝とスペルロンガの洞窟彫刻 ―ご報告

《ポリュフェモスの目潰し》の群像
スペルロンガ出土

シリーズ第3回は、6月22日(金)に、筑波大学・日本学術振興会特別研究員PDの 瀧本 みわ 先生に、「ローマ皇帝の饗宴とギリシア神話 ― ティベリウス帝とスペルロンガの洞窟彫刻 ―」と題し、スペルロンガの海浜別荘に焦点を絞って詳しくお話しいただいた。(25名参加)。

ローマとナポリの中間に位置する海岸沿いの景勝地スペルロンガには、ティベリウス帝が所有していたといわれる海浜別荘がある。海浜別荘とは、海辺の美しい自然に囲まれて、快適で贅沢な余暇を過ごす別荘である。このようなヴィラには、海に面して眺めの良い列柱廊やテラスが設けられた。ローマ人の饗宴(晩餐会)は、ヴィラのトリクリニウム(饗宴のための空間)で行われた。基本的には、中央のテーブルを囲んで、9人の客が寝椅子に横になって食事をとった。

このスペルロンガの海浜別荘には、洞窟を利用した夏用の屋外トリクリニウムが設けられており、≪オデュッセウスによる一つ目巨人ポリュフェモスの目潰し≫や≪オデュッセウスの船を襲う海の怪物スキュラ≫が登場するオデュッセウスの船旅冒険譚を中心とした神話場面が、大理石の彫像群によって表現されている。講義では、このトリクリニウムの洞窟、海、彫刻グループによる三次元の空間演出について詳しく考察された。またティベリウスは占星術に没頭していたので、このスペルロンガの彫刻グループと黄道十二宮との関連性が論じられた。

本講義では、配された彫像の様式や制作年代にまつわる美術史学的問題をはじめ、地中海の洞穴を舞台とした文学的神話地誌の三次元的空間への再現、オデュッセウス神話を追体験するローマ建国の祖アイネイアスへの当時のローマの教養人たちの共感、そしてロドス島やカプリ島で長い隠遁生活を送った皇帝ティベリウス帝の演出意図など、趣向を凝らしたスペクタクル空間がいかに創造されたのか、近年の研究動向を踏まえながら検証された。これまで一般的にはあまり注目されてこなかったスペルロンガの洞窟彫刻に新たな光を投じた興味深い講義であった。(山田記)

<講師プロフィール>
 瀧本 みわ(たきもと みわ)
筑波大学・日本学術振興会特別研究員PD。パリ・ソルボンヌ大学大学院博士課程修了。博士(美術史)。専門は、古代ローマ美術史。特に、北アフリカを中心とした古代末期・初期キリスト教美術。