古代中国の周の時代、小さな杞という国のある男が、「もし天が落ちてきたら、また、地が崩れたらどうしよう」と心配し、夜も眠れず昼は食べ物ものどを通らなかったという。「無用に憂うこと」を意味する「杞憂(きゆう)」は、この話から生まれたと言い伝えられている。
去る4月1日から2日にかけて、イタリアの中部から南部にかけての住民は、中国の無人宇宙実験室「天宮1号」の破片が落ちてくるのではないかと気をもんだ。結局は太平洋上に落ちたが…。
わが家の管理人は「中国の衛星ですよ、どこに落ちるか分かりません。ちょうど復活祭だから、イエス様にローマだけは避けるよう祈るほかはありません」などと話す始末だった。
だが、「杞憂なのに」と軽くみてはいけない。
イタリアの防災局は同国南部への落下の確率が0.1%と発表したが、日本の年末ジャンボ宝くじの1等当せん確率が2千万分の1といわれているだけに、はるかに高い確率だったことになる。
現在、宇宙を回っている人工衛星の総数は4,400機以上といわれている。この人工衛星がいつの日にか、地球上のわれわれの上に落下するかもしれないと考えると、「杞憂」などとのんきに構えていられない。
坂本鉄男
(2018年4月8日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)