昨年12月中旬、国連教育科学文化機関(ユネスコ)の文化遺産にナポリのピッツァ職人の技術が選ばれた。ナポリで生まれたピッツァは今や日本を含め世界中に普及し、世界一ピッツァ好きの米国人の1人当たりの年間消費量は13キロと、本場イタリア人の7.6キロをはるかに上回る。とはいえ、イタリア中では毎日500万枚のピッツァが焼き上げられ年売上総額100億ユーロ(1兆2,300億円)という一大食品産業である。
ナポリ式ピッツァは具がトマト、モッツァレラチーズ、オリーブオイル、オレガノなどで、周りが平べったい普通のピッツァと同じだが、形は必ず円盤形で縁がふっくらと盛り上がったタイプのものである点が違う。また、かまども電気を使わず、まきをたくタイプに限っていて、高温でごく短時間で焼き上げる。
いろいろ種類は多いが、一番有名なものの一つは「ピッツァ・マルゲリータ」であろう。1889年、サボイア王家のマルゲリータ王妃がナポリの王宮に滞在中、名物のピッツァをご所望になった。感激したナポリ一のピッツァ職人ラファエレ・エスポジトが新生イタリア王国の三色旗を表し、トマトの赤、モッツァレラの白、バジリコの緑をあしらい「マルゲリータ王妃」と命名して献上し大変喜ばれたという逸話が残っている。
坂本鉄男
(2018年3月18日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)