「ローマの松」というと、音楽愛好者は誰でも作曲家、レスピーギ(1879~1936年)を思い出す。彼は1913年、ローマのサンタ・チェチーリア音楽院の作曲科教授として赴任して以来、ローマの自然と風物に魅了され「ローマの泉」「ローマの松」「ローマの祭り」の3部の交響詩を作曲した。
さて、レスピーギを魅了したローマの松だが日本と剪定(せんてい)方法が違う。日本の松は下の方から左右に枝ぶり良く枝を張らせることも多いが、イタリアの松は下枝は全部を切り落として幹をまっすぐ高く伸ばし、てっぺんの方に唐傘のように丸く枝をまとめあげる。このため、てっぺんに雪が積もったり強風に遭ったりすると、根の浅い樹木だけに簡単に重心を失い倒れてしまう。
2月26日早朝にローマでは珍しくかなりの降雪があり「美しい雪の都」が出現したが、倒木と折れた枝で何台もの車の屋根が壊された。
これは松だけでなくテベレ川沿いのプラタナスの並木も同じで、昨年だけでローマ市内の倒木事件は約40件に上った。市当局は安全対策として高さ20メートル以上の街路樹の点検を行うことにしたが、赤字財政の市だけに手の打ちようがない。
今、レスピーギがローマに赴任したら交響詩の着想など到底浮かばないのではないか。
坂本鉄男
(2018年3月4日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)