日本と同じように、イタリア国内のインフルエンザの流行は今季、近年になく激しい。1月中旬までに400万人、つまり国民15人に1人が感染したといわれる。原因の一つは、一部地域で配布されたワクチンが今年のインフルエンザに効かないものだったためだ。
インフルエンザの流行で有名なのは、ちょうど100年前、第一次世界大戦中の1918年に始まった通称「スペイン風邪」だ。患者数は当時の世界人口の3割にあたる約5億人、死者数は4千万人以上と推定される。被害の規模は人類史上最悪の戦争となった第二次世界大戦の犠牲者を上回ったとする推計もある。
スペイン風邪は、同年3月ごろ米国で発生した。感染源が米国だったにもかかわらず「スペイン」の名を冠したのは、戦争中の各国が情報を隠蔽(いんぺい)する中、中立国だったスペインが流行情報を世界に発信したことに由来するといわれる。
米軍の進軍とともに大西洋を渡り、5~6月にはヨーロッパ全土に拡大。翌年の秋まで毒性を強め、世界中に蔓延(まんえん)した。日本でも皇族の竹田宮恒久王、東京駅の設計者で建築家の辰野金吾、劇作家の島村抱月など著名人が相次いで死去している。
100年前のスペイン風邪の教訓を思い出し、万全の感染予防対策に努めたい。
坂本鉄男
(2018年1月28日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)