先日、ローマで人気上昇中のミシュランの一つ星レストランで9皿のフルコースを注文したのだが、最後から2番目に「ウナギのかば焼き」が出たのには驚いた。目をこらして眺めてから口に入れたが、完全に日本式のウナギのかば焼きだった。唯一の違いは腹側の皮がとってあったことだ。ご飯がなく、ナイフとフォークで食べるのもやや味気なかった。
オーナーシェフを呼んでかば焼きの由来を聞いたところ、北欧系のセカンドシェフが、修業先の東京で料理法を学んで帰ってきたのだという。
「ローマ付近の湖では針でウナギを釣るため、ストレスがたまって味が良くない。北イタリアのポー川河口にあるデルタ(三角州)地帯の中心、コマッキオ産のものを取り寄せて使っています」。オーナーシェフはうんちくを傾けた上で、「ウナギは冬が一番脂が乗っておいしいのです」とも説明した。
日本では江戸時代の学者、平賀源内が夏場の客離れを嘆いた鰻(うなぎ)屋に提案した宣伝文句「土用の丑の日」が定着して以来、ウナギの味に関係なく、夏が旬だと信じられている。夏の「丑の日」に登場する脂の少ないウナギでなく、脂の乗った冬のウナギのかば焼きを食べ、味を比較なさることをぜひおすすめしたい。
坂本鉄男
(2017年12月17日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)