古代ローマ帝国の強力な軍団の中枢をなしていたのが、ケントゥリオ(イタリア語でチェントゥリオーネ)と呼ばれる「百人隊長」だった。大体、100人の部下を指揮・監督していたのでこの名前で呼ばれた。百人隊長の軍装は、普通の軍団兵と比べて非常に派手で、羽根飾りのついたかぶとや数多くの勲章をぶら下げたよろい、左前にさした短剣などが特徴であった。
さて、この古代ローマの百人隊長の格好をした男たちが、円形闘技場コロッセオなどローマ市内の名所旧跡にたむろし、観光客を相手に記念写真を撮らせてチップを取っている。一時、市当局がこうしたいかがわしい連中は観光都市にふさわしくなく、違法だとして処分を下したが、彼らの一部が生活権の侵害として行政裁判所に訴えた結果、市の禁止条例が停止され、無秩序状態に陥っている。
東京から来た友人は、古代ローマとはなんの関係もないローマ市のど真ん中の観光名所「スペイン階段」で、この古代の軍装をした男に呼び止められた。一緒に記念写真を撮ってチップを与えたところ、額が少ないと脅される目に遭ったという。
秋の観光シーズンにローマにおいでの方は、遺跡で待ち構えるハリボテで飾ったインチキ百人隊長の餌食にならないようご注意を。
坂本鉄男
(2017年10月15日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)