坂本鉄男 イタリア便り
 妻帯を許さぬカトリック…でも、少年への性的虐待、愛人囲う法王まで… 特異な制度の影

 キリスト教の中でもカトリック教会だけが司祭の妻帯を許さない。このため、結婚するとカトリック教会から除籍されてしまう。妻帯を禁ずるようになったのは1139年の第2ラテラーノ公会議以来とされるが、それ以前は妻帯は普通であったし、その後も規則はたびたび破られた。

 典型的な例はスペイン・ボルジャ家出身の15世紀の法王アレクサンデル6世である。カトリック教会の最高位にあって模範を示す身でありながら、半ば公然と愛人を囲った。息子チェーザレや娘ルクレツィアを自らのおいやめいと称し、バチカンの要職につかせたり大貴族に嫁がせたりした。

 一方、ドイツ南部レーゲンスブルクのカトリック教会の少年聖歌隊では今月18日、1990年代初頭までの約60年間に、500人以上の少年らが暴力や性的虐待を受けていたことが明らかになった。世界各地のカトリック教会でも同様の疑惑が指摘されており、特異な制度の影を浮き彫りにしている。

 正直に愛する女性と結婚し、教会を追われた元司祭はイタリアだけで4千人、全世界では10万人とも推定される。先ごろ、妻帯者である元司祭の一部が、法王フランシスコに「復権」を請願した。彼らこそ、信者の人生を最も理解できるものであると思うのだが。

坂本鉄男

(2017年7月23日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)