「イタリアは労働に基づく民主的共和国である」
共和国憲法第1条がこう明記しているだけに、5月1日のメーデーは国民の祝日となっている。
ちょうど気候が温暖になってくる頃なので、ピクニックにも最適な祝日だ。ローマでこの日に欠かせない食べ物は「生のソラ豆と羊のチーズ」だ。
まだ初物のソラ豆は、大きくなっていないものをサヤからむき出して生で食べる。塩ゆでなどで食べることが多い日本人にとって、最初はやや青臭い感じがするが、慣れると甘みがあってうまい。
ソラ豆は新石器時代から地中海沿岸で栽培されていたといわれる。古代ギリシャ時代には消化に悪く、悪夢を見るものとして嫌われたが、後に精力増進によいとされ、花と春と豊穣(ほうじょう)をつかさどる女神、フローラにささげられたとされる。
これと一緒に食べるのは羊の乳で作る塩味のやや強いペコリーノチーズだ。高い栄養価と消化の良さ、長期の保存性から、遊牧民族だった古代ローマ人とは切り離すことができない食物だった。
メーデーの祝日に、家族と一緒に野外で生のソラ豆とペコリーノチーズを食べ、赤ワインを飲みながらバーベキューを楽しむローマ市民を見ると、夏の近さを感じる。
坂本鉄男
(2017年4月30日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)