ローマのわが家の近くに、1階が菓子屋で、地下がワイン専門というとても繁盛した店があった。経営者の母親と中年の息子と親しくなり、クリスマスにはいろいろな菓子とワインを詰めた箱をプレゼントされたこともあった。
ところが、ある日突然、店が金物店に改装されたのである。情報通の理髪店の話では、真面目そうに見えた息子が賭博常習者で、借金で店を手放さざるを得なくなったとのことだった。
イタリアではアルコール依存症が400万人以上、麻薬常用者が45万人、賭博常習者が60万人と推定されている。中でも、最近問題になっているのは、町中至る所にあるスロットマシンなど賭博機を備えたゲームセンターに入り浸る若者だ。
日本でも、大手製紙会社の御曹司の賭博による巨額な損失や、芸能関係者や元スポーツ選手の麻薬使用のニュースが新聞をにぎわしたが、麻薬も賭博も一度手を染めると、抜け出すのは難しい。
賭け事好きが多いイタリアには3カ所だけ公認賭博場が設けられ、あとは国外の賭博場に行ってもらうことになる。日本では国会でカジノ解禁法が成立したそうだが、日本人は果たしてギャンブル依存症への免疫性を持っている国民なのだろうか。
坂本鉄男
(2017年2月26日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)