坂本鉄男 イタリア便り 愛人をめぐる富豪の遺産相続権争い 実は人ごとではない?

 日本でもイタリアでも、最近の民法改正により嫡出子と婚外子の相続権がほぼ平等になった。この新民法の相続権が過去に遡(さかのぼ)って効力があるかどうかをめぐり、ニューヨーク大とフィレンツェの一家の間で、市郊外の大邸宅と敷地、邸宅内の美術品に関する裁判が数年前から行われている。

 大邸宅と数々の美術品の持ち主だった英国人の美術研究家、ハロルド・アクトン氏は1994年、死去に際し、身内がいないことを理由に全ての財産をニューヨーク大に寄贈した。以後、この館は同大の欧州の研究拠点になってきた。

 ところが、ハロルド氏の父で美術品収集家だった富豪のアーサー・アクトン氏には、フィレンツェ出身の女性の愛人がいて、娘1人をもうけていたのである。この愛人の孫たちが時価4億ユーロ(約480億円)以上と推定される遺産の相続権を主張しているのだ。

 大学側は、正当な手続きを経て寄贈されたものだとして、あくまで法廷闘争を続けるつもりだし、元愛人の孫たちも、新民法の効力は過去に遡及(そきゅう)すると主張し、遺産の半額を求めて争うつもりらしい。

 巨額の財産を持たない庶民には関係がないにしても、洋の東西、身のまわりをきれいにして死ぬことは大切であることを痛感させる。

坂本鉄男

(2016年12月11日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)