文化セミナー「著者に聞く」シリーズ 第3回は、11月18日(金)18:30-20:15 日伊協会石川記念ルームにおいて開催され、『ナポリ建築王国―「悪魔のすむ天国」を作った建築家たち』の著者 河村英和先生に、ナポリが一番輝いていた17-18世紀のナポリとその近郊のナポリ独自のバロック建築について語っていただいた。(参加者約30名)
イタリアの古い諺でナポリのことを、「悪魔のすむ天国」と呼んだ。『ナポリを見て死ね』というほど美しい、湾の風光絶景はまさに「天国」である一方、貧困問題を抱え、狭く暗い路地に住み、良くも悪くも独特な気質のナポリ人が「悪魔」に喩えられたわけであるが、治安が悪く「悪魔」がいそうな地区ほど、「天国」のように美しい建物が隠れている。
ナポリのバロックは、次のように4つの期間に分けられ、それぞれ特色をもっている。
1)16世紀後半から17世紀前半にかけての初期バロック。イエズス会の建築家たちが活躍し、デザインに後期ルネサンス時代の名残がある。
2)17世紀後半の盛期バロック。建築・彫刻ではファンザーゴらのナポリ派が興隆し、グーリア(尖塔)や噴水が流行し始めた。
3)18世紀前半も盛期バロック。サンフェリーチェに代表される独自のロココ趣味が開花し、中庭に面して配された階段が流行した。
4)18世紀後半の後期バロック。新古典主義の要素も加わり、ヴァンヴィテッリなどナポリの宮廷建築家たちが、王宮やナポリの重要建築を建設した。
どの期間においても共通するのは、地元で採掘できる石材を生かしてデザインすることである。一つは濃い灰色の「ピぺルノ」(火成岩)で、もう一つは薄い黄土色の「トゥーフォ」である。
ナポリの地図にプロットされた個別の建築について詳しくお話いただいたが、詳細はご著書でご確認されること、また、ご興味を持たれた方も多く、本書を片手にナポリの街のバロック建築を渉猟する日の早やからんことを希望する。
(山田記)
<講師プロフィール>
■河村 英和(かわむら・えわ)
東京大学大学院人文社会系研究科特任准教授。東京工業大学工学部建築学科卒、ナポリ・フェデリコ大学建築学部建築史科phD博士。専門は、ホテル建築、建築史、都市史、風景絵画史、観光史。主な著書に、『Alberghi storici dell’isola di Capri』(Edizioni La Conchiglia)、『Il Quisisana. Biografia del Grand Hotel di Capri』Edizioni La Conchiglia)、『カプリ島-地中海観光の文化史』(白水社)、『イタリア旅行-「美しい国」の旅人たち』(中公新書)、『ナポリ建築王国-「悪魔のすむ天国」をつくった建築家たち』(鹿島出版会)のほか、イタリアで出版された論文多数。