2千年前の初代ローマ皇帝アウグストゥスでさえ、苦しまずに死ぬ「安楽死」を願い、安楽死を意味するギリシャ語「エウタナシア」をいつも口にしていたと歴史家は伝えている。
だが現在、安楽死を法的に認めている国はスイス、オランダ、ベルギーなどごくわずかである。最近、ベルギーで17歳の末期患者に未成年者として初めて安楽死が認められ、大問題になった。
神から授けられた生命の尊厳を重んじるローマ法王庁は、ただちに激しく非難したが、イタリアでは、この問題はこれまでほとんどタブー視されてきた。
とはいえ、実際には年間100人以上がスイスに安楽死のための片道旅行に赴くといわれる。また、患者とその親族と医師との暗黙の了解の下、延命治療をせず、苦しまずに死を迎えさせる例は数多くあると推定されている。
こうした社会情勢を踏まえ、今年1月末にイタリア下院の各党代表会議で、近い将来に国会で安楽死を討議することが決まった。しかし、現時点ではこれが討議される見通しは立っておらず、ましてや「安楽死法案」が可決されるとは全く考えられない。
だが、世界的に高齢化が進む現在、問題が提起されたこと自体、一歩前進といえるのではないか。
坂本鉄男
(2016年11月20日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)