坂本鉄男 イタリア便り 長寿国に異変あり

 イタリアは世界一の長寿国日本に次いで、またスイス、スペインなどと並んで長寿国に数えられてきた。実際、イタリアの新聞によると現在、世界一の長寿者は1899年生まれのイタリア女性、エマ・モラノさんで116歳である。

 イタリアには100歳以上の高齢者が2万人いる。だが、最近のイタリア統計局の発表によると、2015年の平均寿命は男性が80・1歳と前年比で0・2歳減、女性も84・7歳で0・3歳減だった。このような平均寿命の低下現象は、イタリアでは第二次大戦後初めてだそうだ。

 ある有力日刊紙は、寿命低下の原因を「長年の不況のため」と指摘する。だが、有力調査機関Doxaの15年の調査によると、イタリア人の住居の平均面積は104平方メートルで、80%が持ち家だとされる。

 また、統計局の発表によると昨年度の1世帯の平均月間支出は2500ユーロ(約30万円)だったという。これでは寿命低下が不況のためだとは思えない。考えられる原因は、生活習慣病の蔓延(まんえん)のようだ。

 この点、日本人の平均寿命が長いのは、他の国とは比較にならぬ程に充実した健康保険制度と、設備の整った公的医療機関、公的介護システムが理由に挙げられる。日本人は幸せだ。

坂本鉄男

(2016年7月24日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)