坂本鉄男 イタリア便り 「全ての道はローマへ」を迷惑がる市民たち

 東京の港区の広さもないローマの旧市街の商店にとって、デモや集会ほど迷惑千万なものはない。全国集会を開く団体やデモを組織する労働組合にとっては、せっかくだからローマでと思うだろうが、道路は占拠され、買い物客は閉め出されるし、万一、警官隊と衝突でもあれば巻き添えに遭ってショーウインドーを破られることだってある。

 5月19日からの3日間だけでも、まず19日はポポロ広場で全国から300台のバスで集まった年金生活者の集会が、約1キロ離れた国会前では保育園・幼稚園の職員らの集会があり、その上、ご丁寧にもポポロ広場近くの銀行で強盗事件まで起こっていた。

 続く20日、午前中は市営交通機関のストのため、自家用車で乗り付ける勤め人の車で大混乱。午後は高級ホテル街のベネト通りおよびその周辺が全国から集まった400台の超高級クラシックカーの行進のため交通遮断になった。

 21日午前中は、右翼と左翼の若者のデモ隊がそれぞれ警官隊に囲まれて練り歩き、夕方からは、オリンピック・スタジアムでサッカーセリエAの「イタリア杯」の決勝戦が行われ、ミラノから来た過激ファンによる暴行事件も起きている。「全ての道はローマへ」は、今のローマ市民が一番返上したい言葉である。

坂本鉄男

(2016年5月29日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)