坂本鉄男 イタリア便り 年末年始が味気ない

日本で育った者にとってイタリアの年末年始は味気ない。先週金曜日のクリスマス、翌土曜日の聖ステファノの祝日、そして日曜日と久しぶりの3連休ではあるが、あとは特別に年末年始を祝う習慣はない。

強いて言うならば12月31日の夜、知人や友人が料理を持ち寄って集まり、深夜0時に新年を祝いシャンパンを抜き、互いにお祝いの言葉を交わしたあと、テラスに出て花火を打ち上げ、古いものを下の道路に投げ捨てる(これは危険なので禁止された)習慣があったが最近では廃れつつある。

日本なら年末から三が日の長い休暇があるがイタリアでは全く違う。クリスマスのあとは、カレンダー上の1年の初めとしての1月1日の祝日と、生まれたばかりのイエス・キリストが人類の代表として礼拝に訪れた東方の3博士に初めて姿を見せたことを祝う1月6日の「ご公現の祝日」があるだけだ。1月の両祝日は、近いとはいえ全く性質の違うものだけに、両者を結びつけて大連休にするなどという日本的発想は存在しない。

わが国でも「もういくつ寝ると お正月 お正月には 凧(たこ)あげて 独楽(こま)をまわして 遊びましょう」と童謡に歌われた子供の年末年始の世界は姿を消してしまった。世界中で伝統が失われるのは寂しいものである。

坂本鉄男

(2015年12月27日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)