こんにちは。あっという間に12月となり、今年も終わりに近づきました。一年で最も忙しない月ですが、皆さんお元気にお過ごしですか?シエナの町はクリスマスのイルミネーションが輝き、愛する家族や友人へのプレゼントを抱えた人々が足早に行き交っています。
今年最後のお便りは、このシーズンにピッタリの美徳carità(愛)をテーマに締めくくりたいと思います。
愛の美徳caritàは、西洋世界では古くからfede(信仰)、 speraza(希望)の徳とともに3つの神学的徳として尊ばれ、その中でも一番大切な徳であるとされてきました。
ロレンツェッティのフレスコ画『Allegoria del Buon Governo(善政の寓意)』の中では、頭に冠を戴き、手に燃え盛る心臓と矢を握る天使の姿で描かれています。擬人化されたシエナ共和国の頭上に羽ばたくCaritàは、Sapienza Divina(神の英知)と共に絵の最上位に配置され、町の繁栄には博愛の精神が何にも増して肝要であると説いています。
ロレンツェッティと同時代を生きたシエナの守護聖人の一人、サンタ・カテリーナは、「Tutti i vizi sono conditi dalla superbia, si come le virtù sono condite e ricevono vita dalla carità(すべての悪徳はおごりの香りがするけれど、すべての美徳は愛から生まれ、愛の香りがする)」 と言っています。
ロレンツェッティの描いたCaritàは古典的な姿をしていると言われますが、絵画や彫刻などの芸術作品の中では、キリスト教美術の伝統に則って擬人化された、幼子たちに授乳する若い娘の姿をしたCaritàをよく目にします。
例えば、ジョットがパドヴァのスクロヴェーニ礼拝堂に描いたCarità。果物と花の盛られた籠を右手に持ち、左手で神さまからお金の入った袋を受け取っている若い娘の姿は、cartàが自らを養い他人を助ける術であり、愛に満ちた人は神さまから必要なものすべてを受け取る、という寓話を表しています。
イタリア語のcaritàは、形容詞caro(愛しい)と同じ語源を持っています。ギリシア語のchàris(優美)を模倣してラテン語の形容詞carus(愛しい)が生まれ、そこからラテン語の名詞caritas(愛、博愛)が派生し、イタリア語のcaritàとなりました。英語のcareや charityなども同じ語源です。イタリア語のcaritàには、博愛、慈愛、隣人愛などにあたる「愛」いう意味があるほか、charityのように「慈善」という意味もあります。例えば、「chiedere la carità(施しを乞う)」や 「fare la carità(施しをする)」という具合です。また、間投詞的に「Per carità!」と言うと、「無理無理!何馬鹿なこと言っているの!ちょっと、やめてよ!」と否定的な表現になります。
今年は非情なテロ事件が頻発し、世界に大きな影を落としました。そして、ヨーロッパではさらなる極右の台頭、日本では憲法第9条の改正と、世界の平和が脅かされていることを実感する一年でした。愛だけで世界を救うのは難しいかもしれませんが、古人は何百年もの昔からcaritàが平和な社会の繁栄に欠かせない徳だと私たちに伝えています。大切な家族や友人たちと過ごす行事があまたの年末年始は、愛について思いを巡らす最高の機会です。皆さんの周りに愛が溢れる時となりますように。どうぞ素敵なクリスマスと良いお年をお迎えくださいませ。
ダンテ・アリギエーリ・シエナ
ヴァンジンネケン 玲