「パリのテロの後だけに、予定していた旅行は延期しよう」などと思う人は法王になる資質はない。ローマ法王フランシスコは、11月25日から30日まで予定通り、平和と和解と内紛の停止を諭すため、ケニア、ウガンダ、中央アフリカの3カ国を歴訪中である。
だが、この3カ国ともテロの危険性は高く、ケニアの首都ナイロビでは2013年のショッピングモールの襲撃事件、ウガンダの首都カンパラでは10年夏のサッカーW杯決勝を観戦中の客を狙ったレストラン襲撃事件などが記憶に新しい。また、中央アフリカでは北部のイスラム系と南部のカトリック系の住民の対立による内戦状態が続いている。いずれの国でも法王を迎えに集まる信者の数は多数と予想されるだけに、テロリストが紛れ込むことは容易である。
こうした状況ながら、出発前にバチカン市国報道官ロンバルディ神父は「法王は防弾チョッキの着用も防弾ガラス付き乗り物も拒否した」と語っていた。
高齢の法王にはアフリカ歴訪の帰国とほとんど同時に、自ら宣言した12月8日から約1年間の「特別聖年」の行事が控えている。
ローマ法王になるには、強靱(きょうじん)な肉体と死をも恐れぬ不屈の精神力のほか、布教に対する絶対的使命感が必要なことを痛感する。
坂本鉄男
(2015年11月29日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)