オリーブ油の大生産地である南部イタリアのオリーブ農家は、オリーブの木に繁殖する悪性の細菌で古木が次々と枯れる被害が蔓延(まんえん)して困っている。今のところ、対策としては細菌のついた木を切り倒すしかなく、オリーブ農家の存続にもかかわる。もともとイタリアに存在しなかったこの細菌は、アメリカ大陸ではアーモンド、かんきつ類、コーヒー豆の木などに付着し、蛾(が)の一種が媒介すると考えられてきた。
イタリアでも特に被害の大きいプーリア州レッチェ市の検察庁も、地元の大特産品の被害とあって原因究明に乗り出した。だが、相手が人間ならいざ知らず、細菌だけにお手上げだ。
今のところ原因として推測されるのは、2010年に州内で開かれた国際害虫研究会に研究対象物として持ち込まれた細菌の流出説や、中米コスタリカから輸入される観葉植物説だ。だが今更、原因が判明しても時すでに遅しで、他州への拡散防止が急務である。
実際、私の知人がいつもオリーブ油を購入するローマ市のオリーブ畑の農家でも被害が出始め来年はイタリア産オリーブ油が払底する危険もあるという。
交通手段の発達で世界が狭くなった分、中東呼吸器症候群(MERS(マーズ))など人間の感染症ばかりでなく動植物の伝染病にも注意が必要である。
坂本鉄男
(2015年7月12日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)