坂本鉄男 イタリア便り ローマ法王のざんげ

去る6月22日、イタリア北部の都市トリノを訪問中のローマ法王フランシスコは、市内のプロテスタント・ワルドー派(イタリア語ではワァルデーセ)の寺院を訪れ、カトリック教会が何世紀にもわたって同派を迫害したことをローマ法王として初めて謝罪した。

ワルドー派は12世紀、フランス・リヨン出身のワルドーが清貧と道徳的な生活を掲げて教会改革を目指して創設し、南仏から北イタリア一帯に布教勢力を伸ばした。アッシジの聖フランシスコが、清貧をモットーにカトリック教会の改革を実行したのとほとんど同時代だ。

だが、ワルドー派はローマ法王に認められず幾世紀にもわたり異端として迫害されたのである。特に1655年4月の復活祭前後、この派の信者たちは、法王庁の了解のもとにサボイア王家とフランス王国の連合軍により徹底的に虐殺された。信者らは当時、冬季オリンピック開催地であるトリノの西方、ピエモンテの渓谷地帯に住んでいた。

「失楽園」で有名な英国詩人ジョン・ミルトン(1608~74年)も、この殉教者たちにささげて詩「ピエモンテの虐殺」を書いたほどであった。

カトリック教会は過去、ユダヤ教徒以外の他宗教や他宗派に対しても、数多くの非人道的行為に及んでいる。

坂本鉄男

(2015年7月5日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)