みなさん、こんにちは。新学期も始まり、春も満開となりました。近づくゴールデンウィークに、ますます気持ちも華やいでくるのではないでしょうか?
さて、今年度は14世紀にシエナで描かれたフレスコ画にちなんで、人の心に宿るとされるvirtù(徳)についてお便りしています。
今回は、生命の息吹あふれる季節にぴったりの美徳speranza(希望)をテーマに取り上げたいと思います。
アンブロージョ・ロレンツェッティのフレスコ画『善政の寓意』の中で、Speranza(希望)はFede(信仰)とCarità(愛)とともに、擬人化されたシエナ共和国の頭上に描かれました。この3つの徳は、キリスト教では三対神徳とされ特別の意味を持っています。船を留めるために海底に沈めるイカリは希望を象徴するモチーフとされ、新約聖書には希望が人間の魂のためのイカリであると書かれています。
希望を意味する単語speranzaは、現代イタリア語では「未来や現在において自分の望むことを実現する、と信じ期待する気持ち」と定義されています。語源はラテン語のspes(希望)で、この名詞からラテン語の動詞sperareが派生し、その現在分詞から生まれた古フランス語のespérianceにならう形でイタリア語の名詞speranzaが誕生しました。ちなみに、詩などで使われる文学用語のspeme(希望)は直接spes から生まれています。
イタリア語のsperanzaには、「自らの期待に応えてくれると信じている人やモノ」という意味もあります。例えば「Tu sei la mia ultima speranza.(あなただけが頼りなのよ)」といった具合です。また、ancora di speranza(予備のイカリ)、speranza matematica(期待値)といった使い方があるほか、トスカーナ地方では複数形speranzeでヒゲナデシコ(学名Dianthus barbatus)を意味します。
最初のアルファベットを大文字にしてSperanzaとすると、神格化された希望の女神という意味になります。昔の彫刻などには、花のつぼみを右手に持ち、左手で服の裾を持ち上げた希望の女神の立ち姿が残されています。また、現代でもしばしば目にするSpes Ultima Deaというラテン語の表現は「希望は最後の女神」という意味で、女神Speranzaは最後まで人間の傍らに残り人間を見捨てなかった、というギリシア神話の逸話に由来しているようです。
作家ジャンニ・ロダーリは詩『Speranza』の中で、店を持つならば自分はsperanzaを売ろうと歌いました。一方、ダンテ・アリギエーリの『神曲』では、地獄の入り口に「Lasciate ogne speranza, voi ch’intrate(山川丙三郎訳:汝等こゝに入るもの一切の望みを捨てよ)」の文字が書かれていました。詩聖のうたうように、希望を失ったらこの世は地獄になってしまうのかもしれません。春の緑のつぼみとともに、私たちの希望もあちこちで大きくふくらんでいきますように。
ダンテ・アリギエーリ・シエナ
ヴァンジンネケン 玲