今年の5月末、ローマ歌劇場を率いて来日し、ヴェルディのオペラ「ナブッコ」などの公演で日本のオペラファンを熱狂させた名指揮者リッカルド・ムーティが、団員の相次ぐストライキと勝手な態度に愛想を尽かし、9月中旬に歌劇場に絶縁状をたたきつけて去っていった。
ムーティ氏は約6年前からローマ歌劇場のオーケストラの質の向上に努力し、イタリアの首都にふさわしいものに復活させようと努力してきた。実際、彼が指揮をとるたびに歌劇場は超満員になっていた。
ローマ歌劇場の団員、つまり、オーケストラ、コーラス、バレエ団、裏方などはイタリア3大労働組合のいずれかに属しているが、特に最左翼の「イタリア労働総同盟」系の組合員が歌劇場の経営再建を目指す経営陣の合理化方針に反対し、正常なオペラ上演を妨げてきたのである。
例えば、2月末の「マノン・レスコー」の初日数日前の練習では、オーケストラ団員が突然集会を開き指揮者を30分も待たせたほか、5月の日本公演では第1バイオリンを含む約20人が参加を拒否したと報じられている。
今シーズンの開幕を前に「こんな雰囲気では満足できる演奏活動はできない」と、この世界的名指揮者が堪忍袋の緒が切れたのも当然である。
坂本鉄男
(2014年9月28日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)