昔は「水の都」と呼ばれた大阪の橋下徹市長は、「大阪都」構想は打ち上げても「大阪独立」などとは口にしない。だがイタリアの「水の都ベネチア」は違う。3月下旬、ベネチアを州都とするベネト州で「州独立」の賛否を問う「ネット住民投票」を行ったところ、過半数の回答者が賛成と答えたのだ。
ここは、昔は地中海貿易を独占し、ヨーロッパでも最も豊かだったベネチア大公国やベネチア共和国の旧領土で、現在も北部諸州の中でも特に勤勉で裕福な州の一つである。
このため、全国の州の中でも非常に多くの税金を納めているのに、政府は南部の労働意欲が低く貧しい州に金を注ぎ込み、自分たちの州に十分な還元をしていないとして、日頃から不満を持つ住民は多い。
「ベネト独立」は単なる鬱憤(うっぷん)晴らしだと思っていたら、国防省警察は4月上旬、ベネト分離主義者らのアジトを急襲。首謀者ら24人を逮捕し、トラクターを改造した戦車も押収した。中には本気の人間がいたというわけだ。
イタリアには、今は下火になったがアルト・アディジェ地方の一部住民による過激なオーストリア復帰運動もあったし、サルデーニャ島独立運動派も存在したことがある。今の日本にこうした動きがないのは幸いである。
坂本鉄男
(2014年5月25日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)