江戸時代から、日本人は大みそかに「年越しそば」を食べてきた。そばが細くて長いことにかけて、「来年も長寿でありますように」との願いを込めて食べるわけだ。
イタリアでも「来年こそは金運に恵まれますように」と祈りながら大みそかに食べるものがある。「レンティッキエ」(レンズ豆)の煮物である。小さくて丸くて平たい豆の形が貨幣に似ているからで、たくさん食べる方が御利益があると信じられている。
煮豆といっても、日本式の砂糖で煮た豆は欧州には存在せず、タマネギとセロリのみじん切りを炒め、この豆を入れて煮る。味付けは塩、コショウとトマト。さらに、豚の腸に雑肉と脂を詰めた生ソーセージ「コテキーノ」の輪切りを入れることも多い。
レンズ豆は最近では日本でも食べられるようになったが、欧州と中近東では食物としての歴史は非常に古い。旧約聖書の「創世記」第25章に、ヤコブが空腹の兄エサウからパンとレンズ豆のスープと交換に「長子権」を手に入れた話が出てくる。この話からすると、レンズ豆は少なくとも創世記が書かれたとされる3500年以上も前から食べられてきたと考えられる。
読者の皆様がレンズ豆を召し上がって、来年、金運に恵まれますように。
坂本鉄男
(12月29日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)