イタリア人は、昔から休暇を豪華客船で過ごすのが大好きだ。このため、春、夏、クリスマスの休暇シーズン前には、近いものでは「地中海周遊」、遠いものでは「カリブ海クルーズ」の広告がたくさん出回る。
こうした事情を背景に、イタリアは豪華クルーズ船の建造では世界有数の実績を誇ってきた。今回海難事故を起こした「コスタ・コンコルディア号」の船会社「コスタ」も今は米国の会社が所有するが、15年前まではジェノバの海運王コスタ家のものだった。
4年前に偶然ジェノバ港に停泊中の「コンコルディア号」を見たが、そのときもらった説明書にこう書いてあった。
建造は2006年、全長290メートル、幅36メートル、水面からてっぺんまでの高さ61・5メートル、乗組員数1100人、最大収容乗客数4231人で、船内には客室が1500室、プールが4つ、レストランが6つ、大劇場が1つ、人工砂浜が4つ、その他あらゆる娯楽・スポーツ・美容施設が備わっているとあった。まさに11万4千トンという見上げるような巨大な客船、いや海に浮かぶ豪華ビルだった。
今回の海難事故は、いくら科学の粋を集めて造った豪華客船でも無責任な船長に任せたら泥舟にすぎないことを示す好例であった。
坂本鉄男
(1月29日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)