坂本鉄男 イタリア便り 地震予知外れた責任

 去る5月下旬、イタリア中部ラクイラ市の地方裁判所の予審判事が、政府の大災害担当委員会の地震専門委員7人に対する裁判を、9月20日に始めると決定した。果たして開始されるか否か分からないが、裁判とは、犠牲者309人と多数の負傷者を出した2009年4月6日のラクイラ大地震に関するものだ。

 地震の6日前に開かれた大災害担当委員会で、地震専門委員は、前兆となる群発性小地震が発生していたにもかかわらず、大地震は起こらないと言明し、住民から避難する選択肢を奪ったのは重大な過失致死傷罪に当たるというのである。

 日本では地震予知のため毎年国が地震学者と研究所に多額の予算を支出し、気象庁には地震予知情報課まである。それなのに、死者・行方不明者約2万人を出した「1000年に1度」の東日本大震災を正確に予測できた専門家はいなかった。

 正確な地震予知が不可能なことを知る国民の方も、予知できなかった責任を問うことはしない。とはいえ、世界には地震予知をこのように解釈する判事もいることは知るべきである。

 「今後30年以内に起こるかもしれない」という極めて大ざっぱな地震予測に慌てて原発停止を指示した首相もいたのだから正確な予知を一刻も早く望みたいものである。

坂本鉄男
(9月18日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)