坂本鉄男 イタリア便り ローマ法王の食卓

 昔のローマ法王の中には、ボルセーナ湖産のウナギを名産ヴェルナッチャ・ワインに漬け込み焼いて食べるのが好きで、とうとう、ダンテの「神曲」で「飽食の罪」により煉獄(れんごく)に落とされてしまうフランス出身の法王マルティヌス4世(在位1281~85年)のような法王もいた。

 しかし、最近の法王の食卓は実に健康的だ。ドイツ出身の現法王ベネディクト16世は、野菜スープとか肉のローストなど簡素な食事を好み、普段はワインも嗜(たしな)まず、デザートも折に触れティラミスとかリンゴ入り南ドイツ風ケーキを召し上がるだけらしい。その食材も健康的そのものだ。

 法王庁はローマ南方にある丘陵地のカステル・ガンドルフォに、55ヘクタール以上の農園と庭園に囲まれた法王専用の夏の別荘を所有する。1929年以来、この農園から毎朝、バチカン宮殿の台所に無農薬栽培の野菜と果物、園内の牛舎から搾りたての牛乳、鶏舎からは産みたての鶏卵や鶏肉が届けられる。

 もちろん、農園では純度100%のオリーブ油も蜂蜜もとれる。農園では鶏卵1日200個、牛乳約1千リットルが生産されるが、余った分はバチカン内のマーケットや地元の商店にも卸されている。

 法王の食事は農畜産物に限って言えば、まさに今流行の「地産地消」である。

坂本鉄男
(9月4日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)