現ローマ法王ベネディクト16世は、法王になる前の枢機卿時代から臓器提供への積極的賛成者であった。
実際、枢機卿時代の1999年には「臓器提供は隣人愛を示す行為」と述べ、法王になった後の2008年にも、臓器移植国際会議の代表者を謁見した際に、「慈悲心を証明する特別な形式」とも述べている。
こうした言葉に、法王の出身国ドイツの臓器提供運動家の間で、「法王はご自身の臓器を提供なさるおつもりだ」との風評が広がったのである。
去る2月初旬、法王のドイツ人秘書官がバチカンのドイツ語放送を通じて、「たとえ枢機卿時代に臓器提供者のリストに登録なされたとしても、法王座に就かれたときから法王の身体はローマカトリック教会全体のものとなり、それまでのご意志は無効となる」と風評を正式に打ち消した。
法王が死去した場合、遺体は信者の最後のお別れを受けるため、サン・ピエトロ大聖堂に一時的に安置される。このため、現在では遺体の腐敗を防ぐため特別な化学的措置が施される。
だが、16世紀末から約300年間、法王は腐敗防止のため、遺体から直ちに臓器が摘出され、観光名所「トレビの泉」の左斜め前にある「聖ビンチェンツォと聖アナスタジオ教会」に保管されていたものだ。
坂本鉄男
(3月27日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)